穂高槍縦走 三日目 ~The last traverse of my life~
槍を目指して
今日は7月初日。結局穂高岳山荘宿泊者は自分を入れてたったの二名。この時期の平日はこんなものだろうか。いつもはたくさんの人達で賑わう穂高岳山荘もここまでひっそりしていると他の人に気を使わなくて済むので、思いっきりのんびりできるので今日の疲れも和らぐ。
そして縦走三日目。今日も暗いうちに出発し、涸沢岳、北穂高岳を経て核心部の大キレット越え。そこから南岳、中岳、大喰岳と縦走し、最終の目的地、槍ヶ岳へと至る。このルートは12年前に槍から南下した。今回はその逆を辿ることになる。一般に体力的に厳しいのは、西穂から奥穂、奥穂から槍と言われているらしい。12年前もかなり厳しかったけど、今回は更に体力を要するだろう。そして大キレット以外に注意すべき点が3つ。
一つは涸沢岳からの下りだ。実に国内で一長い鎖場と言われるだけあって危険極まりないが、そこをヘッデンで照らしながら下りていく。暗闇の中ではペンキマークを見落としがちになるので、ここは絶対にミスコースをしてはいけないのはもちろん、足元をしっかりと見極めなければならないところだ。
二つ目は北穂直下の残雪。前回は9月下旬だったので残雪の心配はなかったが、この時期は登山道をまだ雪渓が横切っているとのこと。恐らく北穂高小屋のスタッフが切ったステップがあると思うけど、念のためアイゼンとピッケルも持ってきた。果たして使うときがくるのだろうか。
そして最後の三つ目が、南岳から槍までの縦走路。大キレットと比べると普通に稜線を歩くのだけど、距離も長く、アップダウンもきつい。疲れた体にはかなりこたえそうなので、槍までバテないようにしたい。ということで注意点も今日のルートも頭に叩き込んだ。しかしそれ以上の困難が待ち受けていようとは…
穂高岳山荘に一礼して出発する。ここから石段を登りまずは涸沢岳へ。左手にテン場があるが、1幕だけ張られていた。テン泊者もまばらな時期らしい。今日の天気も悪くはならないようで、涸沢岳への登りも登山道をヘッデンで照らしていけば問題はない。途中で山頂への指導標があり、間もなく涸沢岳山頂だ。山荘からは目の前にあるピークなのだけど、朝一番なので意外に距離を感じてしまう。辺りは何も見えないので、元のルートに戻る。しかしここからの下りがまず最初の難関だ。鎖に頼る場所あり、長い梯子を降りる場所ありで気が抜けないのだが、一番注意するのはルートを見落とさないこと。ここは西穂~奥穂よりもペンキマークが短い間隔であるので、ヘッデンでマークを追いながらゆっくりと慎重に下っていく。
最初のコルに下り、ちょっと登っていくと、絶句してしまった。何と左は岩壁で、その岩壁に接するように雪渓が右の谷に向かって横たわっている。わずかに雪が切れたところに足を乗せてみると、そこは凍っていてツルツルだ。これはアイゼン出さないといけないかな…と思ったけど、ルートを遮っているのは数メートル。そして凍っていない箇所を見つけ出し、難なくクリアすることができた。しかしそのまま足元を確認せずに進んでいたら、雪渓の上を滑落することになっていたかもしれない。どこが安全でどこが危険かを見極めることが大切ということを改めて体に叩き込んだ。この先もこれまで以上に慎重に歩いていく。暗い中を再度下りていき、ようやくコルに着いた。足元には「最低コル」の看板。そろそろ東の空が明るくなってきた頃だ。

静かな穂高岳山荘。昨晩の宿泊者は2名だった。

石段を登り、まずは涸沢岳へ。

間もなく涸沢岳に着いた。もちろん辺りは何も見えず。

暗い中、指導標を見落とすわけにはいかない。

この先から涸沢岳からコルに向けての急な下りが始まる。

左の岩壁にくっつくように雪渓が遮る。路面も凍っていて大変危険。

暗い中、ペンキマークをひたすら追いながら下っていく。

最低コルに到達。涸沢のコルとも言うね。

わずかに空が明るくなってきた。今日もいい天気でありますように。
最低コルは涸沢のコルとも言われる。ということは、涸沢槍はとっくに過ぎてしまったということ。真っ暗なのでちょっとわからないのもしょうがないか。ここから北穂までは地図を見る限りではひたすら登っていけばいいのだけど、歩くところはひたすら危険な岩場ばかり。槍から奥穂までは大キレットが最大の難所と言われているけど、北穂から涸沢岳の間もかなり危険なので、安易に立ち入ることは止めた方が良い。辺りが明るくなり、ヘッデン無しでもペンキマークが見えるようになってきた。徐々に高度が上がると、遠くに今日の目的地、槍ヶ岳が見えてきた。

明け方の空に槍のシルエットが美しい。左手前の中岳には大きな雪渓が横たわっている。
岩を伝って、岩を掴んでよじ登ってを繰り返し、だんだんと高度が上がってくる。しばらく飛騨側を進むと、左の岩に「奥壁バンド」の看板だ。トラバース気味に歩いていたので、うすうす気がついていたけど、奥壁バンドに入っていたようだ。この辺りが涸沢岳~北穂高岳の核心部だろうか。ちょっと気を引きしめ直す。

奥壁バンドの看板。滑落事故多発エリアだ。

穂高の急峻な岩峰。特にこの辺りは飛騨側が切れ落ちている。

明るくなってきてペンキマークも確認しやすくなってきた。

北穂へはとにかく岩を掴んでひたすら登る。
「バンド」とは岩壁を横断するように続く棚のこと。ここも足を踏み外せば飛騨側に一気に転落だ。奥壁バンドを抜けると、再度頭上に向かうかのように岩を掴みながら登っていく。北穂はまだまだ先のようだが、徐々に辺りが明るくなるに連れ、遠くの山々も見通せるようになってきた。北穂からの眺めが楽しみになってきた。
